大友良英ギターソロライブ@新宿ピットイン

 今年初めにソロライブがライブ盤としてリリースされ、その“ほぼ完売記念ライブ”となった今回。大友良英のギターソロとなると、畏まってしまうというか、気張ってしまうというか、考えなきゃ!読み取らなきゃ!といったプレッシャーを感じてしまうのだけど、いざ始まってみるともっともっとオープンでフランクな雰囲気。それでも我知らず音に吸い寄せられていくのは、たぶんギターで語り尽くそうとしないからだろう。必ずどこかに隙間がある。アコギで爪弾かれるスタンダードにも、エレキがぶちかますノイジーな轟音にも。


 アコギで奏でるのは、言葉(音数)少なくて、パラパラした印象の音。それが頭のなかでつながって、メロディとなり、コードとなる。その過程がおもしろくて、スリリングで、美しい。ふつう私たちはメロディを音の頭で捉えるのだけど、コレを聴いていると、「音は消えるまでが音なんだ」と思えてくる。たまたま頭を捉えて並べると、そこにリズムが生まれてメロディというフォーマットになるのだけで、その形でなくても音楽としては充分に成立し得る。ごくシンプルな演奏スタイルなのに、含蓄があるというか。。


 で、そういうのがごく自然に耳に入ってくるのが、またイイ。合間のMCも、力が抜けていておもしろい。演奏に反して(?)、言葉数は多い(失礼!)。それもまた楽しみのひとつ。


 演奏中のみならず、終わってからもじんわり音が蘇ってくるような、そんな演奏だった。

酒井俊@お茶の水ナル

 めちゃめちゃシックで高級感漂う、正統派ジャズバー。
遊び慣れた役付リーマンっぽい人たちが、ボトルでちびちび。そうとは知らずいつもの調子でフラフラ入っていくわたしたち。こういうのを場違いというんだな。


 ライブはジャズのスタンダードから。ご本人のサイトなんかのプロフィールで、渡米してジャズシンガーを目指すも壁は高く云々みたいなことが書かれているのだけど、それって歌唱力というよりは、セクシュアルなアピール力みたいなところなのかな?という気がした。何というか、酒井さんが歌にぐいぐい没入していく感じが強くて、わたしはそういうところに好感を抱いたのだけど、たぶんそれだけじゃダメだったんだろうな。


 ところが、ポーグスやアメリカの古いフォーク、さらには日本の童謡などになると、断然、酒井さん自身が生きてくる。歌の世界を演じるというよりは、同化してしまっている感じ。歌を生き返らせるとはこういうことだ。おもしろい。


 メンバーは、松島啓之(tp)(林栄一が入る予定だったのだが、急遽変更)・桜井芳樹(g)・関島岳郎(tuba)・外山明(ds)。このバックのメンバーは、ほぼライブのたびに入れ替わっているよう。今回もたぶんほぼ初顔合わせのような組み合わせだったようで、開演前や休憩時間中に熱心に打ち合わせをしている姿が見られた。それでも時々食い違いがあったりして、そのたびに酒井さんがまるでお母さんのように、お姉さんのように訂正したり指示したりしている。でも、それがまたイイのだ。バラバラの音が重なり合って歌に吸収されていく過程を見るようで。。
多分にハラハラさせられたりもするのだけど、それだけに生命力を感じ取ることができる。だから毎回メンバーを替えるんだろうな、と勝手に思ったり。


 にしても。このシックな会場とセットになっていたリーマンたちは、(もちろん全員がそうではないが)意外にお行儀悪かった。上に書いたようなぎくしゃくにヤジ飛ばしたり、知ったかぶりしてみたり。場慣れ感を演出したいのだろうか。酒井さんのファンではあるらしく親しげに話しかけていたりもしたが、何か間違ってないか?? 場違いはカワイイもんだが、勘違いはタチが悪い。がっかりだぜ、おやじ。

上野洋子/eEYO+横川理彦+外山明@渋谷gabowl

 目下お気に入りのイーヨと、先日いたく感動した横川+外山コンビの共演とあって、これは是非観ておかねば!と、さんざん道に迷いながら向かった今回のイベント。

 まずは、そのeEYO idiot。前回のかっちりバンド編成と違って、今回はフリーキーな感じ。でも、イーヨの歌そのものはフリーに流れないのが良かった。横川さんも外山さんも“何でもアリ”な環境をつくる人だけど、何でもアリってことは自分で何をやるか決めなきゃいけないわけで、実はすごくハードルが高い。でも、イーヨは自分のやりたいことだけをやっている。良い意味で音を理解しようとせず、無垢なまま。だから、ブレがない。

 声がまたカワイイんだなー。というか、カワイく響く音域で歌っていて無理をしていないってことなのかな。身体ひとつでストンと立ち、声帯ひとつで世界をつくる。MCも冴えまくり。というか、ズッコケまくり。自分とは正反対の天然キャラには、素直に憧れるなー。

 横川さん(今回はバイオリン)のフォローがまた絶妙。ふわっとメロディーに寄り添いながらも冗長にはならず、サポートに徹するわけでもなく、並走しつつもうひとつのラインを作り上げていく感じ。外山さんは相変わらず(笑)。キメのポイントが4つあるとすれば、うち3つをまったくスルーし、最後の4つめでビシッときめる。それはたぶん、ドラマーとしてキメのポイントを作らなきゃいけないという使命感に縛られず、自分がいちばん気持ちいいように叩いているからだろう。あと、やっぱりキックのタイミングがいつものごとくいびつなのだけど、外山さんにとっては足も手も同じであって、ベースとなるリズムを足で刻んでそこに手で上モノを加えていくみたいな教科書的な発想がないからだろう。そんなことを思いながら堪能しました。



 で、トリは上野洋子+横川理彦+外山明。上野さんは風邪で本調子ではなかったそうだからかもしれないけど、声の通りが良くなかった。ライブを観るのは初めてなので何とも言えないが、ちょっと残念。ただでさえ楽器類に音の比重が偏っていたため、よけいに不利。

 加えて、あとの二人に対してイーヨが独走態勢を貫いたのに比べると、上野さんの場合は完全に横並びの状態での即興だったから、さらに押され気味との印象が拭えなかった。バックの二人がけっこう尖った音を出していただけに、もうちょっと振り切れてほしかった気がした。音域は広いし、声も魅力的なのに。

 というわけで、こちらに関しては保留。機会があればリベンジしよ。




 でも、そんなことを差し引いても、イベントとしてとても面白かった。二人の歌い手の対照的な個性が見えたし、その歌い手にご両人がそれぞれのアプローチをすることで、彼らの引き出しの豊かさも垣間見えたし。会場の環境は正直あまり良いとは言えなかったけど、そんなことも全然どーでも良いと思えるイベントでした。

横川理彦×外山明@高円寺ペンギンハウス

 少し遅れて到着した頃には、すでに佳境に入っていて、ギターはうなるしドラムはバコバコ。って、ボキャブラリーのなさが窺える表現ですが、予想していたものと全然違って、楽しいのなんの。横川さんがパソコンでリアルタイムに音をサンプリングしているのも、興味深かった。音をダブらせることで、ひとつひとつの音の先端が鈍くなり、音が全体に拡散していく。で、その音の洪水から浮かび上がろうと、また新しい音とリズムが生まれる。てなぐあいに追いかけっこしているような感じ。自分の音と共演したり、自分の音に追っかけられたりするのって、どんな気分だろう? 

 たぶん二人とも、性格が明るいのだろう。どんなに繊細な演奏をしていても、ピリピリした感じはまるでない。次の一手を狙うより、今ここにある音をいじって遊ぶほうが大事、ってことか。横川さんは大きくリズムをとって微細に音を描いていくタイプ、外山さんは細かく変形したリズムを刻みながらおおらかなメロディーを感じさせるタイプ、というふうにある意味対極的なのだけど、この“楽しむ”というモードでは一致しているから、馴れ合いになることなく同じモチベーションを持てるのだと思う。ともかく、こんなに楽しく、こんなに刺激的なライブを観ることができて幸せだった。

 にしても、「これが1番だからー」と、言って聞かせるように独りごちながら機械いじってる横川さんは、ちょっと可愛かった。んで、それを「ふーん」と眺めながら、エフェクトかけたマイクでサンプリングネタを提供して遊ぶ外山さんも、なんかもうホントに(笑)。。

高橋悠二+内橋和久+ジーン・コールマン@新宿ピットイン

 会場に着いたのは、前半の終わり頃。だからかもしれないが、序盤はこれといった波もなく。。まあ、地色を塗る段階だったということか。

 で、第2部。内橋のダクソフォンに、妙なトリップ感を感じる。目が捉えているのは明らかに小さな木片なのに、耳は人間の声だと言い張って譲らない。何度体感しても、この楽器の魔力にヤられてしまう。ジーン・コールマンの低〜いサックスは、楽器が勝手に風を含んで音を出しちゃったみたいな、正体のつかめなさがさらに磁場をゆがませる。途中、ダクソフォンとユニゾンした場面では、なんかもうこの世じゃないみたいな感覚に襲われたりした。

 その感覚をさらに揺さぶったのが、高橋悠二のピアノ。一瞬にして空気が変わる。とは、一緒に観たTさまの言だが、ホントその通り。別に衝撃的な音というわけではないのだけど、音の濁り方がとてつもなく美しく、またゾクゾクするほど不安を誘う。やさしげな表情の裏に見える毒牙が、音によりいっそうの艶やかさを与える。ライブとしては淡泊だったけれど、この一瞬の揺さぶりを体感できただけで幸せ。あとは余韻に浸っていよう。

外山明+大儀見元@新宿ピットイン

 客席の真ん中に向かいあわせにセットを組んで、360度どの方向からも観られるというスタイル。『ボイコット・リズム・マシン』では、実に丁寧にリズムを構築していたが、お馴染のライブではいきなりのかまし合い。2人のビートがどう違うのかとか、あそこでどういうやりとりが行われていたのかとか、そんなことはさすがに分からなかったけど、リズムのよれ具合とか、アクセントのつけ方とかが違うんだなー、ということは何となく感じ取れた。同じようにカタカタと16分を刻んでも、最初のカタと次のカタでは間の取り方が全然違うし、それが1拍の間に16コ入っているからといって決して1コが16分の1ではない。じーっと聴いていると、音が喋っているように思えてくるから不思議。

 そもそも均等に割った規則性のあるリズムなんて存在しないのだから、これは変拍子とは言えない。ヘンな拍子ではあるかもしれないけど、変則的なのではない。そういうリズムなのだ。でもって、大きく刻むとどの拍子も2拍子。外山さんが「オレは2拍子しか叩いていない!」と言っていた意味がよーーーくわかった。……ような気がした。

 展開は全体的になだらかで、特にどちらかが引っ張ったり裏をかいたりということはない。まあ、長年やってきた同志だからね。それだけにハッ!!!という感じはなかったが、むしろそういう驚かしみたいなものがなくて良かったのかも。できれば一日中聴いていたかったけど、外山さんが携帯で仕込んだアラームを合図にライブ終了。その唐突さがいかにも理不尽でおもしろかった。そもそも音楽に終わりなんてないのに……、と言いたげに物足りなそうな表情を浮かべるあたりもまた一興。。

eEYO idiot@曼荼羅2

 eEYO+外山明+かわいしのぶ+デニス・ガン
 メンツ的な興味もありつつも、女性ヴォーカルに二の足を踏んでしまうというヘンな癖によりおあずけにしていたイーヨ。幸い仕事も片づいたし、一度行ってみよう!と思い立ってみた。

 ……おもしろい。こんなに自由にやってて、なおかつ崩れないってのはスゴイことなんじゃないだろうか? どっかの国の童謡みたいな可愛いポップスに、素っ頓狂なギターと、お茶目なベースと、相変わらず手数の多い変則ドラムが絡む。ビー玉ぶちまけたみたいにカラフルな音が好き勝手に転がっていく感じ。楽しいなー。

 イーヨは、小動物みたいな可愛さのある人で、ついつい目が吸い寄せられる。歌の途中にMCを入れたり、「もう一回アタマに戻っていい?」とか言いだしたり、とにかく何でもアリ。そんなフリーキーさもまた楽し。

 MCでイーヨが「ホントは4小節とか8小節とか関係なく好きにやりたくて、外山クンは“やっちゃえばどうにかなるよ!”って言うんだけど、デニスが“ダメ!”って言うから……」なんて言っていたけど、これってインタビューで外山さんが言っていた「何回繰り返したら次に行くように、とか譜面で言われても、なんで?と思ってしまう」っていうのと凄く似てる。で、かわいしのぶもそんなタイプ。気持ちよければ決め事もアリだけど、決め事だから守らなきゃってワケじゃないよ、というスタンス。イーヨは自分の体感を即時的に出す人で、外山明はそれを受け止めたうえでどうなったら面白い?自分はどうしたい?ってのを見つける人、かわいしのぶはそんな2人を眺めながら時々度肝を抜く人。……と、方向性は違うのだけど、基本的には同類なんだなあ。

 一方、デニスはかっちり組み立てて、整然と事を運ぶことを楽しむタイプ。まあ4小節・8小節の話に関して言えば、彼のリフがそもそも4小節単位とか8小節単位とかだから、守ってくれなきゃ困るよー!ということもあるのだろうけど、枠組みを維持するタイプだ。ただ、それが決して窮屈ではないのは、そもそもの枠組みに隙間があってラフな部分を残しているからだろう。以前、戸川純バンドのライブで、純ちゃんが「ともすればインプロに流れがちだけど、ちゃんとポップスというのはカッチリやらなきゃいけない」と言っていたけど、それに通ずるものがあるなあと思う。そういや、その時のギターも、彼。デニスさんってば、我が道を行く異次元な女性ヴォーカルのサポートがお上手なのね。

 というわけで、本当にいい気分のライブだった♪ お手製のCDも買って帰ったけれど、やっぱ音の出方がライブの足元にも及ばなくて、こりゃあまた観に来るしかないなと思った次第。余談だが、外山さんのドラムの音をきっちりパッケージングできるのは、ZAKをおいて他にいない、と思う。