11月26日(金)COMFORT OF MADNESS@新宿ピットイン

ギタリスト内橋和久のユニット。FBIでは時間も押し気味でじっくり観られなかったので、リベンジ。
このユニットは何といっても、クォータートーン・トランペットのフランツ・ホーチンガーが面白い。2夲のマイクを前に置き、片方ではヴォォォォォーっという竜巻のような音を出し、他方では普通に吹いたり、普通には吹かなかったり。あらゆる方法で出せる限りの音を出すのだけど、それが全然畏まっていなくて、でも単にけったいな音を出して喜んでいるだけでもなくて、非常に雄弁。内橋に関しても、まったく同じ。ダクソフォンという木片をこすったり叩いたりしていろんな面白い音を出すのだけど、それがいろんなイメージを掻き立ててくれて、聴いているだけでワクワクする。ただ単純にfunnyなだけじゃなく、その向こう側に何かしら惹きつける世界が見えるから、楽しめる。表向きはメロディーはおろか音階すらないアブストラクトなインプロだけど、喚起されるイメージはとても鮮やかで心地よい。いや、アブストラクトだからこそ、より鮮明なイメージを思い描けるのかもしれないな。
あ、もう一人のメンバー、サンプラー担当のヘルゲ・ヒンテレッガーは……、えっと、ごめん! 何がしたいのかよく分かんない。まあ背景というか地色みたいなものかと。なかなか尻尾を出さないタイプ。でも時々ニヤっとしたりする表情を見ると、実はひねくれ者??
後半は、サム・ベネットがゲスト参加。リズムが加わることで、よりアクティブな展開になる。これがまた面白い! 別に挑発しているわけじゃないんだけど、結果的に挑発されたと見え、他のメンバーがネタを繰り出すタイミングがどんどん早くなる。で、それに比例して、1曲(まあ即興なので曲とも言いがたいのだけど、便宜上…)が短くなるというのが興味深い。あれやってこれやって…、と決められているわけではないのに、ひとつの流れに込めるべきコンテンツというのは暗黙のうちにあるんだな、きっと。で、それが長い時間を要するなら、じっくりじっくり音を育てていくし、短い時間で済むなら、短期決戦でパシュっと決めるし。そういうフレキシブルさがまた、即興の奥深さなのだと知る。

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シノプシスの段階ではめちゃめちゃ面白そうなのに、作品になった途端つまんなくなる映画というのが時々あるけれど、それと同じことって音楽にもあるんだな。例えば、先日のFBIで聴いた琴とかハーディ・ガーディみたいな。楽器自体が持つ面白さ、あるいは演奏スタイルの新奇さ、というのはきっかけに過ぎないのであって、過大評価しちゃいけない。音楽はあくまでも聴くものであり、聴き続けるもの。一瞬の吃驚に振り回されては、真に音楽を味わうことはできない。その意味でも、このCOMFORT OF MADNESSは非常に面白い。長時間の観賞に耐える、いやむしろ長時間だからこそ楽しめる音楽。それはきっと、演じてなんぼ、見させてなんぼな映画と同じく、肉体を通じて音に具現化する身体性と、そこに立ち現れる音を捉える受け手の感覚を、彼らが十全に備えているからだろう。
ま、要するに頭でっかちはいかんということです。